I-11. ミューズをからかう

人々に文化的活動を促すのは、9人の女神たちの役割です。

でも、気まぐれな女神たちが降ろしてくれるインスピレーションをぼんやり待っていたら、いつになるかわかりません。

活動を極めたいなら、こちらから女神たちにちょっかいを出すくらいの気概がないといけませんね。

Michel Dorigny《アポロンとミューズたち》v.1640

ゼウスと記憶の女神ムネモシュネの逢瀬の結果、9人のムーサたちが生まれました。音楽をはじめとする種々の技芸に秀でたアポロンの指揮に従うこの女神たちは、人間のあらゆる知的活動を司り、詩人たちを媒体として、芸術の数々をこの世に生み出します。

Pierre Mignard《カリオペ、ウラニア、テルプシコラ》17ème siècle

奥で天球儀に寄りかかり星を読んでいるのが、天文のウラニア。

叙事詩のカリオペは、その傍らで手元の書板に書きつける内容を練っているようです。

こちらを見つめるのは合唱隊抒情詩と踊りのテルプシコラ。その手には立派な竪琴があります。

Eustache Le Sueur《クレイオ、エウテルペ、タレイア》1652-1655

手前から、役者の仮面を大切そうに見つめる喜劇のタレイア。

側の分厚い書物に書き記すべきことが起こるのを静かに待っている歴史のクレイオは、祝福の音を鳴らすラッパを携えています。

抒情詩のエウテルペの吹くふくよかな笛の音が聞こえてきそうです。


Eustache Le Sueur《メルポメネ、エラト、ポリュヒュムニア》années 1650

恍惚の表情で声を震わせる独吟抒情詩のエラト。一般に竪琴を持つとされていますが、ここではヴィオラをかき鳴らしています。

讃歌のポリュヒュムニアは地面に腰を落ち着け、しめやかに譜面に目を落としています。

高貴な面差しをこちらに向けているのは、悲劇のメルポメネでしょう。その額にはぶどうの冠が見えます。

ムーサのことをフランス語ではミューズと呼び、「ミューズが庇護する活動のいずれかを追求する」こと、特に「詩作に励む」ことを、若干の恥じらいや冷やかしを込めて « taquiner la muse »(ミューズをからかう)と表現します。