I-2. ティタンの仕事

クロノスは土星、すなわち「試練」や「忍耐」の星に相当します。

その試練を乗り越えれば、あなたも「ティタンの仕事」を成し遂げることができるかもしれません。

Francisco de Goya《我が子を食らうサトゥルヌス》1819-1823

成長したゼウスは、父クロノスに薬を飲ませ、呑み込まれた兄姉たちを吐き出させることに成功します。そして、出てきたポセイドン、ハデス、ヘラ、デメテル、ヘスティアらは、ゼウスに率いられて父らティタン神族に戦いを挑みます。

しかし、クロノスが5人もの子どもたちを丸呑みしていたことからもわかるように、天(ウラノス)と地(ガイア)から生まれたティタン神族は巨大で、圧倒的な力を誇っていました。

このことから、 « faire un travail de titan »(ティタンの仕事をする)といえば「驚異的な大仕事をする」ことを意味し、超大作を指して « œuvre de titan »(ティタンの作品)と形容することもあります。

I-1. 豊穣の角

ギリシア神話の世界では、笑ったり怒ったり、恋もすれば嫉妬もする、実に人間味あふれる沢山の神々が、いきいきと物語を織り成しています。そんな神々の性格がよく表れたフランス語のイディオムを集めてみました。

まずは、オリンポスの頂点に君臨する大神ゼウスの誕生にまつわる、「豊穣の角」と山羊座のお話。

たっぷりの「ありがとう」と、ちょっぴりの「ごめんね」で出来た、とある愛の形です。

ゼウスの父であるクロノスは、自らが父ウラノスを倒して支配権を握ったのと同様に、いずれ自分の息子にその座を奪われるだろうという予言を恐れ、妻レアの産んだ子を次々と呑み込んでいました。レアはそれが面白くなく、ゼウスが生まれた時、この子の代わりに石をくるんだものを夫に呑ませ、子供はクレタ島で秘かに育てさせることにしました。

Jacob Jordaens《幼子ゼウスとアマルテイア》c.1640

ゼウスの養育を引き受けたのは、山羊のニンフ、アマルテイアでした。ゼウスは養母の角を一本折ってしまいますが、後に、この角に果物や花々を生み出す力を与えて返しました。これが « La corne d’abondance »(豊穣の角)で、「豊かさの象徴」、「無尽蔵の富の源」を示す慣用表現になっています。

後にゼウスは、感謝の気持ちからアマルテイアを天に上げ、それが山羊座となりました。

Mabel S. Kelton《水彩画:果物のコルヌコピア》v.1939