⚜ ラトナの泉水

フランス式庭園という芸術の一形態を創った庭師、アンドレ・ル・ノートル。ルイ14世お気に入りの「善良な」廷臣であった彼が、主人の願い通りにヴェルサイユに描き出したのは、王たる太陽の栄えある歩みでした。ルイ14世自身の手に成る『ヴェルサイユ庭園の案内方法』Manière de montrer les jardins de Versailles (1689~1705) に示されているように、太陽神アポロンの母である女神レト(ローマ神話名ラトナ)の泉水がこの空間の要となる位置に据えられています。

Parc de Versailles, parterre de Latone. Bassin de Latone. (Coyau / Wikimedia Commons)

レトはデロス島でアポロンとアルテミスを産み落とした後(参照:アポロンの月桂冠)、子らを引き連れてリュキアの地に赴きましたが、女神が泉の水を求めた時、住民たちにこれを阻まれます。怒った女神は、たちまち不遜な人間たちをカエルに変えてしまいました。女神が力を揮う、まさにこの場面が、王の庭に現れているのです。

詩人ラ・フォンテーヌは『プシシェとキュピドンの恋』Les Amours de Psyché et de Cupidon (1669) の一節でその様子を次のように描写しています。


階段の下ではラトナと双子たちが
手に余る無礼者どもを卑しい生き物にしている。
連中が浴びせた水でもって神は連中を作りかえる。
あちらはもう指がヒレのごとく広がり、
それを見つめるこちらも様変わりしている。
また別の者はトカゲと人間とが合わさったようになっており、
その妻は夫の有様を嘆いてカエルの鳴き声を上げるものの、
まだ女の身体をしている。同じく濡れたその身を
洗うのだけれど、嫌な身体のくせを消そうとすればするほどに、
寄せる水波はむしろしっかりと身体をくせ付けてしまう。  

Au bas de ce degré, Latone et ses jumeaux
De gens durs et grossiers font de vils animaux.
Les changent avec l’eau que sur eux ils répandent.
Déjà les doigts de l’un en nageoires s’étendent ;
L’autre en le regardant est métamorphosé :
De l’insecte et de l’homme un autre est composé :
Son épouse le plaint d’une voix de grenouille ;
Le corps est femme encore. Tel lui-même se mouille,
Se lave, et plus il croit effacer tous ces traits,
Plus l’onde contribue à les rendre parfaits.

(Jean de La Fontaine, Les amours de Psyché et de Cupidon, Paris, 1821, p.128.)


アポロンを自らの象徴とし、この神に扮してバレエを踊った「太陽王」ルイ14世ですが、彼がまだ幼い頃、王政に不満を募らせた貴族の反乱にあい、母后とともにパリから逃れていた時期がありました。反乱の矛先は実際の政治を担っていた時の宰相マザランでしたが、幼少期のにがい記憶は、少なからず王にある種の課題を与えたでしょう。

神より権力を授けられし存在である王に逆らえばどうなるのか。延々と水を吐き続ける哀れなカエルたちの姿が、その末路を物語っているようです。