II-16. アリアドネの糸

どんな困難な状況にも、解決の糸口はあるはず。

掴んだなら、決して離すことのないように。強く、かたく握っていてください。

少しずつでも着実に、手繰り寄せていきましょう。

アテナイに辿り着いたテセウスは晴れて王子として迎えられ、保身のために彼を殺そうと企てた魔女メデイアは追放されました(参照:プロクルステスの寝台)。この頃アテナイはクレタ島の王ミノスの支配を受けており、半人半牛の怪物ミノタウロスの餌として少年少女を捧げるよう要求されていました。英雄は敢えて自ら生贄の列に加わります。怪物は名工ダイダロス(後述)の造った迷宮に閉じ込められており、入った者は二度と出られないとされていましたが、これに果敢に挑むテセウスを手助けしたのが、ミノスの娘、王女アリアドネでした。

Angelica Kauffmann《テセウスに毛糸玉をわたすアリアドネ》(18世紀)

テセウスに恋したアリアドネは、英雄が道を見失うことのないよう、道しるべとなる糸玉を授けます。テセウスは怪物を退治した後、この糸を手繰って、迷宮を無事に脱出したのでした。

このことから、« le fil d’Ariane »(アリアドネの糸)は「正しい道のりを教えてくれる手掛かり」を意味する慣用表現となりました。この「糸」の意味が広がって「一連の物事の正常な流れ」を示すものとなり、« perdre le fil »(糸を失う)といえば、「議論にもう進展がない」ことや「これ以上理解することが出来なくなる」ことを意味するのです。

II-15. プロクルステスの寝台

頭と寝床はふかふかと柔らかく保ちたいものです。

自分のものさしで他人を測るようなことは、時として相手にむごい苦痛を与えることにもなりかねませんから。

ちょっと頑なになってしまう時は、自分の身体に合ったベッドで、ゆっくり休んでみてください。

アルゴ船を率いたイアソンは、コルキスの王女メデイアの助けを得て金羊毛を手に入れ、イオルコスに帰還します。しかし魔女メデイアが英雄のためにおこなった残虐行為の数々は度を越しており、国を追われた二人はコリントに移ります。しばらくは平穏な暮らしが続いたものの、コリント王クレオンがイアソンを娘婿にと目をつけ、イアソンもこれに応じたために、嫉妬に狂った魔女の復讐がもたらされることとなります。メデイアはイアソンからすべてを奪い、悲嘆にくれる彼をひとり残して、自らはアテナイ王アイゲウスの下に身を寄せます。

アイゲウスの息子であるテセウスもまた、名だたる英雄に数えられますが、彼は素性を明かされぬままトロイゼンの母の元で育てられました。青年となり自らの出自を知ったテセウスは、父王に認めてもらうため、敢えて危険な道を通ってアテナイへ向かいます。英雄が道すがら掃討した数多の悪人のうちのひとりがプロクルステスでした。この盗賊は横になる場所を貸してやると言って旅人をベッドに寝かせては、ベッドに合わせて人体を引き伸ばしたり切り縮めたりして殺していたのです。このことから、« un lit de Procuste »(プロクルステスの寝台)は、「杓子定規」であることや、「暴力的な改竄」のことを意味します。

19世紀のドイツの雑誌「Berliner Wespen」に掲載されたビスマルクに対する風刺画(作者不詳、1878/8/30)