I-1. 豊穣の角

ギリシア神話の世界では、笑ったり怒ったり、恋もすれば嫉妬もする、実に人間味あふれる沢山の神々が、いきいきと物語を織り成しています。そんな神々の性格がよく表れたフランス語のイディオムを集めてみました。

まずは、オリンポスの頂点に君臨する大神ゼウスの誕生にまつわる、「豊穣の角」と山羊座のお話。

たっぷりの「ありがとう」と、ちょっぴりの「ごめんね」で出来た、とある愛の形です。

ゼウスの父であるクロノスは、自らが父ウラノスを倒して支配権を握ったのと同様に、いずれ自分の息子にその座を奪われるだろうという予言を恐れ、妻レアの産んだ子を次々と呑み込んでいました。レアはそれが面白くなく、ゼウスが生まれた時、この子の代わりに石をくるんだものを夫に呑ませ、子供はクレタ島で秘かに育てさせることにしました。

Jacob Jordaens《幼子ゼウスとアマルテイア》c.1640

ゼウスの養育を引き受けたのは、山羊のニンフ、アマルテイアでした。ゼウスは養母の角を一本折ってしまいますが、後に、この角に果物や花々を生み出す力を与えて返しました。これが « La corne d’abondance »(豊穣の角)で、「豊かさの象徴」、「無尽蔵の富の源」を示す慣用表現になっています。

後にゼウスは、感謝の気持ちからアマルテイアを天に上げ、それが山羊座となりました。

Mabel S. Kelton《水彩画:果物のコルヌコピア》v.1939