物語はギリシアの豪傑アキレウスの「怒り」に焦点を当てて展開します。彼の怒りの契機は、妾として愛していた女奴隷ブリセイスを自軍の総大将アガメムノンに奪い取られたことでした。怒れる英雄が自身の陣営に引きこもって出て来なくなってしまい、ギリシア側は次第に窮地に追いやられていきます。 « se retirer sous sa tente »(自分のテントに引きこもる)という表現はこの時のアキレウスの様子を指し、「怒りにまかせて大義名分を投げ打つ」ことや、「すねて孤立する」ことを意味します。
フランス式庭園という芸術の一形態を創った庭師、アンドレ・ル・ノートル。ルイ14世お気に入りの善良な廷臣であった彼が、主人の願い通りにヴェルサイユに描き出したのは、王たる太陽の栄えある歩みでした。ルイ14世自身の手に成る『ヴェルサイユ庭園の案内方法』Manière de montrer les jardins de Versailles (1689~1705) に示されているように、太陽神アポロンの母である女神レト(ローマ神話名ラトナ)の泉水がこの空間の要となる位置に据えられています。
Parc de Versailles, parterre de Latone. Bassin de Latone. (Coyau / Wikimedia Commons)
Au bas de ce degré, Latone et ses jumeaux De gens durs et grossiers font de vils animaux. Les changent avec l’eau que sur eux ils répandent. Déjà les doigts de l’un en nageoires s’étendent ; L’autre en le regardant est métamorphosé : De l’insecte et de l’homme un autre est composé : Son épouse le plaint d’une voix de grenouille ; Le corps est femme encore. Tel lui-même se mouille, Se lave, et plus il croit effacer tous ces traits, Plus l’onde contribue à les rendre parfaits.
(Jean de La Fontaine, Les amours de Psyché et de Cupidon, Paris, 1821, p.128.)
時は流れ、ヘラクレスはオイカリアを攻略し、王女イオレを捕虜としました。これを知ったデイアネイラは、夫の愛を失うことを恐れて、ネッソスの体液を夫の下着に染み込ませてヘラクレスに送りつけます。ヘラクレスが何の疑いもなくそれを着ると、ゆっくりと「薬」が効き始めました。布は皮膚にこびり付き、剥がそうとすれば肉もろとも崩れ落ちます。デイアネイラが恋の薬と信じたネッソスの体液には、ヘラクレスがこれを射抜いた矢尻に塗り込まれたヒュドラの猛毒が含まれていたからです。英雄を苦しめたこの « la tunique de Nessus »(ネッソスの衣)は、「毒入りの贈り物」、あるいは抽象的に「心を引き裂くような情熱」、「精神的な束縛」を意味する表現になりました。ヘラクレスは無惨な姿のまま妻の元に運ばれ、デイアネイラは自らがしでかしたことを悟って首をくくりました。
ヘラクレスは不死身の人喰いライオンを窒息するまで締め上げ、ひとつ頭を落とせばふたつ頭が生えてくる巨大な海蛇の怪物ヒュドラを大岩の下敷きにし、次々と偉業を達成していきます。こうして彼が成した12の功績を踏まえて、 « un travail d’Hercule »(ヘラクレスの仕事)という言葉が「尋常でない大業」を意味する表現になりました。
英雄が片付けたのは怪物だけではありません。彼の大仕事のうちひとつが、エリス王アウゲイアスの家畜小屋の掃除でした。この王は3000頭もの牛を所有していましたが、その小屋は30年間掃除されておらず、惨憺たる状態でした。ヘラクレスは、付近を流れるふたつの川の流れを捻じ曲げ、小屋に貫通させることで、これをたった一日で掃除してみせたのでした。このことから、 « nettoyer les écuries d’Augias »(アウゲイアスの家畜小屋を掃除する)という表現は、すなわち「腐敗したところを一掃する」という意味になります。