II-15. プロクルステスの寝台

頭と寝床はふかふかと柔らかく保ちたいものです。

自分のものさしで他人を測るようなことは、時として相手にむごい苦痛を与えることにもなりかねませんから。

ちょっと頑なになってしまう時は、自分の身体に合ったベッドで、ゆっくり休んでみてください。

アルゴ船を率いたイアソンは、コルキスの王女メデイアの助けを得て金羊毛を手に入れ、イオルコスに帰還します。しかし魔女メデイアが英雄のためにおこなった残虐行為の数々は度を越しており、国を追われた二人はコリントに移ります。しばらくは平穏な暮らしが続いたものの、コリント王クレオンがイアソンを娘婿にと目をつけ、イアソンもこれに応じたために、嫉妬に狂った魔女の復讐がもたらされることとなります。メデイアはイアソンからすべてを奪い、悲嘆にくれる彼をひとり残して、自らはアテナイ王アイゲウスの下に身を寄せます。

アイゲウスの息子であるテセウスもまた、名だたる英雄に数えられますが、彼は素性を明かされぬままトロイゼンの母の元で育てられました。青年となり自らの出自を知ったテセウスは、父王に認めてもらうため、敢えて危険な道を通ってアテナイへ向かいます。英雄が道すがら掃討した数多の悪人のうちのひとりがプロクルステスでした。この盗賊は横になる場所を貸してやると言って旅人をベッドに寝かせては、ベッドに合わせて人体を引き伸ばしたり切り縮めたりして殺していたのです。このことから、« un lit de Procuste »(プロクルステスの寝台)は、「杓子定規」であることや、「暴力的な改竄」のことを意味します。

19世紀のドイツの雑誌「Berliner Wespen」に掲載されたビスマルクに対する風刺画(作者不詳、1878/8/30)

II-14. オオヤマネコの眼

雲を越え、岩を越え。

地の果てまで見渡せる眼があったなら、あなたは、どんな景色が見たいですか。

どんな場所を、目指していきたいですか。

話はトロイア戦争以前に遡ります。イオルコスの王子イアソンは、叔父にあたるペリアスから父の王国を取り戻すため、コスキスの金羊毛を求め、50余人の英雄たちを率いて船の旅に出立しました。これはホメロスの叙事詩においても周知の事実となっている冒険物語で、アルゴ船で航海した名だたる英雄たちをアルゴナウタイと総称します。

Abraham Orteliusの「パレルゴン」1624年復刻版より、ロドス島のアポロニウスの『アルゴナウティカ』に基づくアルゴナウタイの航海図

そのひとりが、メセニアの王子リュンケウスでした。アルゴナウタイはそれぞれが特別な天賦の才能を持っており、彼の才能は障壁をすり抜けて物を見る力、いわゆる千里眼でした。« Avoir des yeux de lynx »(オオヤマネコの眼を持つ)という表現は、動物のオオヤマネコに由来すると思われがちですが、元を辿れば英雄リュンケウス (Lyncée) の名にちなむもので、この英雄の眼のように「非常に良く視えること」、あるいはより抽象的な意味で「慧眼であること」を指して用いられます。