II-7. カッサンドラを演じる

時に正論ほど反感を買うものはありません。

それに、一人がいくら正義を唱えたとて、その他大勢が義に反して団結したなら、そちらがまかり通ってしまいます。

向かう先の破滅は、勢いづいた人々には見えていないのですから。

悲惨な戦争の始まりを予言して、パリスのヘレネ略奪に対し異を唱え続けた人物がいました。パリスの妹、カッサンドラです。彼女はかつてアポロンに言い寄られた際、この神から予言の能力を授かりましたが、その能力で自らがアポロンに捨てられる未来を見てしまい、関係を持つことなく彼を拒絶します。アポロンは全くもって納得いきませんから、腹いせに、彼女の予言能力に「誰にも信じられない」という運命を付け加えてしまいます。

このことから、 « jouer les Cassandre »(カッサンドラを演じる)という表現は、「耳触りは良くないけれども正しい予言をし、人々に受け入れられない」ことを意味します。

Jérôme-Martin Langlois《ミネルヴァにアイアスへの復讐を乞い願うカッサンドラ》1810

乙女の瞳は、自らの辿るむごい未来を見つめて、何を想うのでしょうか。