II-14. オオヤマネコの眼

雲を越え、岩を越え。

地の果てまで見渡せる眼があったなら、あなたは、どんな景色が見たいですか。

どんな場所を、目指していきたいですか。

話はトロイア戦争以前に遡ります。イオルコスの王子イアソンは、叔父にあたるペリアスから父の王国を取り戻すため、コスキスの金羊毛を求め、50余人の英雄たちを率いて船の旅に出立しました。これはホメロスの叙事詩においても周知の事実となっている冒険物語で、アルゴ船で航海した名だたる英雄たちをアルゴナウタイと総称します。

Abraham Orteliusの「パレルゴン」1624年復刻版より、ロドス島のアポロニウスの『アルゴナウティカ』に基づくアルゴナウタイの航海図

そのひとりが、メセニアの王子リュンケウスでした。アルゴナウタイはそれぞれが特別な天賦の才能を持っており、彼の才能は障壁をすり抜けて物を見る力、いわゆる千里眼でした。« Avoir des yeux de lynx »(オオヤマネコの眼を持つ)という表現は、動物のオオヤマネコに由来すると思われがちですが、元を辿れば英雄リュンケウス (Lyncée) の名にちなむもので、この英雄の眼のように「非常に良く視えること」、あるいはより抽象的な意味で「慧眼であること」を指して用いられます。