II-13. オデュッセウスの犬

形あるものは何ひとつとして、時の流れに身を置くことを免れないけれど。

幾星霜を経ても変わらないものが、確かに感じられるのです。

目に見えなくとも、手に取れなくとも。

オデュッセウスが長い旅路の末に妻ペネロペの待つイタケ国に辿り着いた時(参照:ペネロペの布)、彼は邸に押し寄せる輩を欺くため、女神アテナの助力によって年老いた乞食に成りすましていました。この姿を見てすぐに正体に気付いたのは、彼の愛犬アルゴスのみでした。老犬は主人を認めるやいなや、力を振り絞って喜びを示した後、その場で息絶えたといいます。このことから、« le chien d’Ulysse »(オデュッセウスの犬)は「非常に忠実であること」のシンボルになりました。ギリシア神話の「忠犬ハチ公」といったところでしょうか。

『オデュッセウス』(1835)、John Flaxman による挿絵《主人を認めて喜びのうちに死すアルゴス》