II-12. ペネロペの布

旅立つ背中を見送ってから、眠れない夜を何度数えたことでしょう。

帰る場所を守るため、変わらない日々を紡ぐのもまた、試練なのかもしれません。

イタケの王オデュッセウスが長い冒険に身を投じている間、故郷に残された妻や息子にも、それぞれの闘いがありました。『オデュッセイア』は、英雄の家族の物語でもあるのです。

英雄の出国時には生まれたばかりだった息子テレマコスが青年に達する頃。オデュッセウスの帰郷があまりにも遅いので、イタケでは王はすでに死んだものと噂されていました。そんな中、テレマコスは父の行方を求めて自らも旅に出ます。

John William Waterhouse《ペネロペと求婚者たち》1912

一方で妻ペネロペは、邸に押し寄せる数多の男たちの求婚を懸命に退けていました。今織っている布が出来上がったら結婚を考えるという条件を出して、彼らを待たせたのです。昼間に布を織り、夜になるとひそかに解きほぐして、翌日また織る。この繰り返しですから、布が出来上がるはずもないのですが。こうして3年間をやり過ごした « un toile de Pénélope »(ペネロペの布)は、「際限なく繰り返される仕事」を意味する慣用表現となりました。

夫を信じて待ち続けたペネロペの忍耐は報われ、20年ぶりにイタケの地を踏んだオデュッセウスは同時期に帰国していた息子と手を組んで求婚者たちを蹴散らし、家族は再会を果たすこととなります。