II-10. トロイの木馬

ヘトヘトに倦み疲れたところで、突如として目の前に希望が現れたのなら、一度ならず目をこすって、よくよく確かめてみましょう。

いっぱいいっぱいの状態では尚のこと、正常な判断が難しくなるものですから。

戦争は長きに渡りましたが、トロイアの陥落はあっけないものでした。それは、難攻不落のトロイアを前に、ギリシアの勢いが失せたように思われたある日のこと。夜が開けると、忽然と静まり返った戦地に、巨大な木馬が現れました。傍らにはギリシア人がひとり。聞けば、彼は神々の怒りを鎮めるための供物として取り残されたのであり、木馬は退却したギリシア勢から女神アテナへの捧げ物だというのです。木馬をこれほど大きく造ったのは、アテナの加護をもたらすと予言されたこの木馬を、トロイア人が城内に引き入れることのできないようにするためだ、と。これを訝しみ異を唱えた者が公衆の面前で蛇に襲われるという災難に見舞われたのもあって、トロイア王は男の証言をすっかり信じます。

Giandomenico Tiepolo《トロイの木馬の行進》v.1760

人々は城壁を破壊して木馬を運び込み、勝利の宴を挙げました。その晩、辺りがすっかり寝静まった頃。木馬の腹を裂いて、ギリシアの英雄たちが飛び出しました。これがトロイアの最後となったのです。このことから、「悪意のある贈り物」や、いわゆる「潜入工作」のことを « le cheval de Troie » (トロイの木馬)と呼ぶようになりました。