II-9. アキレウスのかかと

守ってくれる人、助けてくれる人、支えてくれる人。周りを見渡してみると、どこかにぬくもりが感じられるのではないでしょうか。

しかし誰しも完璧ではいられないもの。

優しさに恵まれていても、油断は禁物です。

戦場に戻ったアキレウスは数々の武勲を立てます。ところが、この英雄には唯一の弱みがありました。というのも、アキレウスが生まれた時、女神テティスは自らが産んだこの子を不死の身体に仕立てようと冥界の河に浸しましたが、彼女がつかんでいたかかとだけが水に触れず、生身のままに残ったのです。

Antoine Borel《息子アキレウスをステュクス川の水に浸すテティス》18世紀

このことから、 « le talon d’Achille »(アキレウスのかかと)、すなわち「アキレス腱」に当たる部分が、「弱点」、「急所」を指す慣用表現となりました。『イリアス』においてアキレウスは親友の仇ヘクトルを討ち取りますが(参照:テントに引きこもるアキレウス)、叙事詩が幕を下ろした後、やがて、パリスにかかとを射抜かれて深手を負い、命を落とします。