II-6. ステントールの声

辛い時、思いもよらず力強い声援が得られることがあります。

発破をかけてくるその声は、苦難の最中にあってはうるさくも感じられるでしょう。

でも、いつか乗り越えた先で、あの一声にどんなにか励まされたものかと、懐かしく振り返ることになるかもしれません。

Charles Antoine Coypel《アキレウスの怒り》1737

トロイアの王子パリスは、黄金のリンゴをアフロディテに渡してこの女神を味方につけたものの、手強いふたりの女神、ヘラとアテナの恨みを買うことになりました。トロイア戦争中、軍神アテナは前線でギリシアの英雄を庇護し、その傍に立って活躍します。神々の王たるゼウスの妻であるヘラは、基本的には交渉役として後方支援に回りますが、一時、居ても立っても居られずにステントールという名の英雄の姿をとって現われ、ギリシア勢を鼓舞しました。その声は50人分の声を束ねたような大きさで響き渡ったといいます。

このことから、 « avoir une voix de stentor »(ステントールの声を持つ)という表現は、「恐ろしい程の大声である」ことを意味します。