II-2. ヘラクレスの大掃除

超人ヘラクレスの武勇伝は挙げればキリがありません。

突き抜けた才能は、爽快なまでに鮮やかに、思いも寄らない方法で人々の悩みの種を解消してしまうものです。

英雄の手にかかれば、大掃除もスケールが違います。

蛇を絞め殺す幼ヘラクレス、ローマの大理石彫刻(2世紀)

例のごとく、ゼウスが他所の女に孕ませた子に対するヘラの恨みは凄まじいものです。その程はといえば、出産の女神に頼んでこの子の誕生を遅らせたばかりか、まだ生まれたばかりの赤ん坊のゆりかごに蛇を投げ入れるような次第です。あろうことか、赤ん坊の方が蛇を絞め殺してしまったのですが。

ヘラクレスは成長し、テバイの王女メガラを妻として、 3人の子供にも恵まれました。それを見たヘラが黙ってはいません。女神に狂気を植え付けられたヘラクレスは、我が子らを火に投じて殺めてしまいます。彼は正気に戻ると、犯した罪を悔やみ、自ら追放の身となります。その後どうしたものかとアポロン神殿に赴き神託を伺ったところ、12年間ミケナイ王エウリステウスに仕え、命じられた仕事をこなすよう告げられたのでした。

Peter Paul Rubens《ヘラクレスとネメアのライオン》17ème siècle
Gustave Moreau《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》1876

ヘラクレスは不死身の人喰いライオンを窒息するまで締め上げ、ひとつ頭を落とせばふたつ頭が生えてくる巨大な海蛇の怪物ヒュドラを大岩の下敷きにし、次々と偉業を達成していきます。こうして彼が成した12の功績を踏まえて、 « un travail d’Hercule »(ヘラクレスの仕事)という言葉が「尋常でない大業」を意味する表現になりました。

英雄が片付けたのは怪物だけではありません。彼の大仕事のうちひとつが、エリス王アウゲイアスの家畜小屋の掃除でした。この王は3000頭もの牛を所有していましたが、その小屋は30年間掃除されておらず、惨憺たる状態でした。ヘラクレスは、付近を流れるふたつの川の流れを捻じ曲げ、小屋に貫通させることで、これをたった一日で掃除してみせたのでした。このことから、 « nettoyer les écuries d’Augias »(アウゲイアスの家畜小屋を掃除する)という表現は、すなわち「腐敗したところを一掃する」という意味になります。